第80回都市対抗野球大会応援記

26番目の敵
JR東日本との対戦、それは目の前の打者だけでなく、もう一つの敵との戦いでもある


はじめに
いよいよ今年も都市対抗野球の季節がやってきた。毎年おなじみの各チームの応援テーマを聴くたびに、「やってきたぞ!」という気持ちになるのは、自分だけではないだろう。
ただ、今年ほど特別な思いを抱いて都市対抗を迎えることは無い。それは、自分が社会人野球の世界に足を踏み入れるきっかけとなった日産自動車硬式野球部が、世界的な不況を理由に今季限りでの休部を発表しているからである。
思えば、初めて東京ドームで都市対抗を見たのが7年前、その時も日産の試合だった。以後毎年のように(当時無職だった2007年を除いて)日産の応援に行ってきた。そんな夏が当たり前だと考えていたのだが、もう来年からはそれも出来なくなってしまうのかと思うと、寂しさすら覚える。
今年の神奈川二次予選は三菱重工横浜との第1代表決定戦が引分け再試合になり、再試合もまさかのサヨナラ負け。第2代表決定戦では昨年覇者の新日本石油ENEOSにまさかのコールド負けを喫し、神奈川最後の第3代表決定戦で東芝を下してどうにか代表権を獲得した(ちなみに、第1代表決定戦は引分け試合、再試合ともに観に行きました)。第3代表決定戦は観に行けなかったので、代表決定を知った瞬間は「これでドームだ!」とホッとしたものである。
そして7月20日、組み合わせ抽選会で試合日が8月22日に決まる。「仕事が休みなら観にいける!」
そして今日、この間いろいろあったもののどうにか観に行けることになる。相手は仙台市JR東日本東北―。


試合開始に間に合わない!?
自宅を10時半過ぎに出て、水道橋に着いたのは11時過ぎ。「まだ時間があるから」と早めの昼食を取ったのだが、外に出ると既にチーム券を求める大勢のファンが列を成していた。しかもその列は今までに経験したことの無いほど伸びていて、初めは「これ社歌斉唱に間に合うのか?」と思っていたのだが、だんだん「試合開始に間に合うのか?」に変わっていった。それでも試合開始までに入場することは出来たのだが、自分が入った時には既にJR東日本の社歌「明け行く空に」が流れ終わっていた。


精一杯の声を挙げて
日産は代表権獲得の立役者、石田(東京国際大)、JR東北は、エース・摂津(現福岡ソフトバンク)の抜けた穴を埋める活躍を東北二次予選で見せた猪原(東京農大)の両右腕の先発でスタート。1回、日産・石田がJR東北の攻撃を3人で締めると、その裏一死から、試合前に10年連続出場表彰を受けた2番・四之宮(青山学院大)が死球で出塁すると、休部による特例でドラフト解禁が1年早まった3番・熊代(今治西)も右前打で続いて一死一、三塁。ここで長年4番を張ってきた小山(東洋大)の中前打で1点を先制。我々が陣取る一塁側スタンドは早くも「世界の恋人」で盛り上がる。
だが、2回が終わる頃から、我々はもう一つの敵とも戦うことになる。それは「26番目の選手」JR東北の応援団である。
本社チーム(東京都)がドームに大応援団を繰り出してくるのはおなじみだが、東北チームも本社に負けない動員力でドームの座席を埋め尽くし始めていたのだ。そしてその勢力は左翼席だけでなく、ついに3階席へもあふれ出していたのである。そして日産側を上回る大歓声―。これはこちらにとって相当な脅威となる。
このパワーが通じたのか、3回、JR東北は7番・和田(関西大)が右翼フェンスに直撃する二塁打で出塁すると、8番・小澤(上武大)の送りバントで三塁へ進み、9番・桂田(岐阜聖徳大)の中前打で同点とする。ドームを大歓声が包み、応援席ではスモークが発生し、銀テープが発射される。もう、やることが違いすぎる…。
だが、今日の石田はこの相手の応援団のパワーに動じなかった。後続をきっちり抑えると、4回、5回は三者凡退。
この好投に5回、打線が応えた。大ベテランの7番・伊藤(福井工業大)が四球で出塁すると、8番・須田(日本大)の進塁打と相手のバッテリーミスで三塁へ進塁。「突撃のテーマ」を大絶叫する中、ここで9番・北山(奈良産業大。新人)がスクイズを決めて1点を勝ち越す。再び「世界の恋人」で盛り上がる一塁側。
だが7回、最大のピンチが訪れる。一死からJR東北の3番・鈴木(亜細亜大)が中前打で出塁すると、続く4番・佐藤(翔。慶應大)の当たりは詰まった当たりとなって右翼へ。「よし、ツーアウト!」と思った瞬間、打球はポトーンと右翼・吉田(関東学院大。新人)の前へ…。打球がドームの白い屋根に消える、魔の「ドームヒット」だ。過去にこの一本がきっかけでどれくらいのチームが涙を呑んできたことか…。
だが、石田は落ち着いていた。5番・長谷部(東洋大)を空振三振に切って取り、続く6番・堀江(仙台育英)を二飛に。チャンスでさらに音量の上がっていた相手応援団に飲み込まれそうな状態で、修羅場を潜り抜けてきた経験が相手の反撃ムードを摘み取った!
そして迎えた9回、石田がJR東北の反撃を3人で抑え試合終了!2-1。最後の日と羽ばたきへ、日産ナインがドームに舞い踊った。
そして勝利監督インタビューに続いて、勝利の社歌斉唱。二次予選の時は負けての社歌斉唱しか出来なかったので、やっぱり勝利しての社歌斉唱は格別だ。
このあとエール交換をして、自分はJAMが開催されているビッグサイトへ。何とかトミーテックブースの新製品紹介(2日目最終回)に間に合いました。


第80回都市対抗野球大会2回戦

TEAM
仙台市JR東日本東北
横須賀市日産自動車 ×

JR東北 ●猪原(東京農大)、森内(青森大)
日  産 ○石田(東京国際大)