第68期順位戦最終局ダイジェスト

第68期順位戦(毎日新聞社朝日新聞社主催)は3月16日のC級1組10回戦を持って全ての対局が終了した。
今年度はA級以下のクラスで最終局を待たずに昇級枠が埋まってしまったのが2クラス、C級2組は残り1局を残した時点で3枠ある昇級枠のうちの2つが埋まってしまうなど、昨年と比べるとドラマ性に欠けたな…という印象である。
そんな順位戦らしくなかった今年度の順位戦最終局の模様を、今回も昨年度に続き、お届けしよう。尚、A級最終局については2日のエントリを参照のこと。
3月5日…B級2組10回戦
B級2組は9回戦を終えた段階で中村修九段(前期6位)が昇級を決め、残り1枠を7勝2敗の中田宏樹八段(8位)、阿久津主税七段(11位)、野月浩貴七段(19位)、6勝3敗の先崎学八段(5位)の4人で争う展開となった。
昇級に絡んだ将棋のうち一番早く終わったのが中田八段−安用寺孝功六段(前期C級1組から昇級。21位)戦。23:18、中田八段が安用寺六段を下し、順位戦参加24期目で初のB級1組への昇級を決めた。阿久津七段は畠山成幸七段(前期17位)を下したものの、終局は中田−安用寺戦の終局からわずか2分後。時間にも順位の壁にも泣いた。また、野月七段は森下卓九段(前期B級1組から降級。順位2位)に敗れ、先崎八段は持将棋指し直しの末、日付変わった6日3:10に佐藤秀司七段(前期7位)を下した。
昇級を決めた中田八段だが、かつて王位戦挑戦者になったこともある実力を持ちながら順位戦参加24期目、45歳でのB1昇級と本来ならもっと早い段階で昇級していてもおかしくなかったほどである。
降級点*1は佐藤七段、土佐浩司七段(前期16位)、内藤國雄九段(前期20位)森雞二九段(前期24位)の4人に付き、2回目の降級点を取った内藤九段、森九段が降級となった。降級点1を持ち、最終戦に敗れれば降級の恐れがあった桐山清澄九段(前期23位)は南芳一九段(前期9位)に勝ち、降級を免れた。
それにしても、昨年の加藤一二三九段に続き、今年は内藤九段、森九段と2人のベテランが降級か…。将棋界もだんだん一時代を築いた方がフェードアウトしていきますね…。

3月9日…C級2組10回戦
C級2組は今期各棋戦で大活躍(竜王戦5組優勝、王将戦挑戦者決定リーグ入り)の豊島将之五段(前期6位)が8回戦で、高崎一生四段(前期7位)が9回戦でC級1組への昇級を決め、残り1枠を7勝2敗の金井恒太四段(前期12位)、横山泰明五段(前期16位)、及川拓馬四段(前期25位)、6勝3敗の村田顕弘四段(前期5位)と糸谷哲郎五段(前期8位)の5人で争う格好となった。
このうち、まず20:54に横山五段が大内延介九段(前期39位)を下す。この時点で及川四段の昇級の目が潰えた。その及川は23:49には長岡裕也四段(前期13位)を下す。この時点で村田四段、糸谷五段の結果が注目されたが、日付が変わった0:12、金井四段が山本真也五段(前期34位)を下し、自力での昇級。開幕から6連勝と走りながら終盤に入って2敗を喫し、この日もキャンセル待ち一番手の横山五段が先に勝ち、絶対に負けられないプレッシャーがかかっただけに、喜びもひとしおだった。なお、村田四段、糸谷五段は日付変わった0:00過ぎにいずれも投了に追い込まれた。
一方、既に昇給を決めていた豊島、高崎の2人はそれぞれ藤原直哉六段(前期36位)、澤田真吾四段(新参加。順位43位)を下し、昇級に花を添えた。豊島五段は10戦負けなしでのC1昇級である。来期のさらなる躍進に期待。
降級点は淡路仁茂九段(前期20位)、有吉道夫九段(前期32位)、所司和晴七段(前期33位)、山本五段、藤倉勇樹四段(前期38位)、大内九段、児玉孝一七段(前期40位)、西川和宏四段(新参加。42位)の8人に付き、有吉九段、大内九段、児玉七段、藤倉四段が3回目の降級点を取ってしまいフリークラスに降級。そして有吉九段と大内九段はフリークラスの規定(60歳定年。有吉九段74歳、大内九段68歳)に引っかかってしまい、残念ながら最終対局日を持って引退(これについては脚注を参照のこと*2)ということになってしまった。2人とも昭和40年代から50年代の将棋界を支えた大ベテラン。名人にあと一歩まで迫ったこともあり、特に有吉九段が師匠である大山康晴十五世名人に挑んだ第28期名人戦(昭和44年)、大内九段が中原誠名人(当時)に挑んだ第34期名人戦(昭和50年)は将棋史に残る名勝負として語り継がれている。
お2人ともお疲れ様でした。今後は将棋界のさらなる発展に力を発揮していただきたいと思います。
尚、有吉九段は先月行われたNHK杯テレビ将棋トーナメントの予選を突破。最年長出場記録を更新した。もし優勝すれば負けない限り現役を続けられることになるので、頑張ってもらいたいものである。
意外だったのが関西若手4人衆(豊島五段、村田顕四段、糸谷五段、稲葉陽四段)のうち、豊島以外の成績が伸びなかったこと。3人とも6勝4敗に終わり、勝ち星を伸ばせなかったのが昇級を逃した要因か。来期は活躍に期待したい。

3月12日…B級1組13回戦
毎年実力ある面子が揃い、「鬼の住処」と称されるB級1組だが、今年は最終局を待たずに渡辺明竜王(前期4位)と久保利明棋王(前期5位)のA級昇級が決定。また、11回戦で堀口一史座七段(前期9位)の降級が決まり、残り1つの降級枠を2勝9敗の阿部隆八段(前期7位)と3勝8敗の畠山鎮七段(前期8位)の2人で争うことになった。畠山七段は堀口七段に勝てば自力、阿部八段は深浦康市王位(前期A級から降級=2位)に勝って畠山七段が負けた場合、順位の差で残留となる。
だが、この争いはあっさり決着がついてしまった。23:24、阿部八段が深浦康市王位(前期A級から降級。順位2位)に敗れ、この瞬間、阿部の降級が決まった。この時点で残留が決まった畠山七段だったが、24:01に堀口七段に勝ち、最終戦を白星で飾った。
また、王将戦第5局が10日、11日に行われた関係で久保棋王のみ4日に最終戦が行われたが、行方尚史八段(前期6位)に敗れ、有終の美を飾ることは出来ず、この時点で渡辺の1位通過が決まった。その渡辺は杉本昌隆七段(前期3位)を最終戦で下し、有終の美を飾っている。
来期は佐藤康光九段がA級から降級してくることで、ますます厳しい戦いが予想されるB級1組。来期笑うのは果たして…。

3月16日…C級1組10回戦
今年度は9回戦で戸辺誠五段(前期C級2組から昇級=28位)、飯島栄治五段(前期4位)の2人がB級2組への昇級を決め、最終局は降級点争いが焦点となった。
既に9回戦の段階で西川慶二七段(前期22位)、大平武洋五段(前期26位)、神崎健二七段(前期31位)の3人に降級点がつき、残り3人の降級点をだれが取るのかが注目されたが、佐々木慎五段(前期13位)、石川陽生七段(前期17位)、中田功7段(前期19位)3人が敗れ、降級点がついた。前期B級2組から降級してきた加藤一二三九段(順位2位)は近藤正和六段(前期16位)に敗れ、降級点の付く可能性があったが、佐々木五段が敗れたことで降級点を免れた。
降級点は以上3人に加え、西川七段、大平五段、神崎七段の3人を加えた計6人。2回目の降級点を取った石川七段、神崎七段が降級となった。また、昇級を決めた戸辺五段、飯島五段の2人は最終戦も勝って昇級に花を添えた。戸辺五段はこれで10戦全勝、飯島五段は開幕戦に敗れた後の残り9局を全勝で駆け抜けた。


今期は佐藤康光九段のA級陥落や、谷川浩司、高橋道雄両九段の健闘など、予想外の出来事が多かった。また、B級2組は昨年の豊川孝弘七段に続き、今年は中村九段、中田八段とベテラン勢が昇級し、まだまだ健在であることを示した。一方で豊島五段や戸部五段ら、勢いのある若手が前評判通りの活躍を見せ、昇級を決めたことは今後上位者の脅威となろう。


ただ、やはり今期は最終局を前に昇級者が次々と決まってしまい、盛り上がりに欠けたのもまた事実。このエントリを書くのも大変だった…。来期は最終局までどうなるか分からない、順位戦らしい順位戦になることを期待して、キーボードを止めたいと思います。

*1:降級点制度…日本将棋連盟公式HPによると、B級2組以下では、リーグ参加者の5人に1人の割合で成績下位者に降級点がつく。降級点のつく人数は参加者が15人以上19人以下の場合3人、20人以上24人以下の場合4人、25人以上29人以下の場合5人となる。

*2:2月25日に日本将棋連盟HPで発表があり、現在引退が決まった年度末を引退日付とする規定から、引退が決まっていた年度に勝ち残っていた棋戦の最終対局日(テレビ棋戦の場合は放映日)を引退日付とする規定に変更された。詳細はこちら。