平成22年度東都大学野球秋季一部・二部入れ替え戦観戦記

運命が開かれた日
2008年6月9日は一人の選手の運命を変えた大きな日となった。東都大学リーグ一部・二部入れ替え戦で名門・駒澤大が中央大に敗れ2度目の二部降格、そして中央大の6シーズンぶりの一部復帰が決まったのである。もしこの入れ替え戦で中央が敗れていたら、澤村拓一が表舞台に出てくる事は無かっただろうし、ましてや巨人から1位指名を受ける事もなかっただろう。
それから約2年半、大学球界最速の157km/hの速球で一躍注目を集めることとなった澤村は巨人からドラフト1位指名を受け、駒澤は4シーズン二部で苦しんだ末、一部復帰への大きなチャンスをつかんだ。
投手交替の難しさ
2010年秋、駒澤は日本大、立正大との優勝争いが最終週まで縺れた末に二部優勝を決めた。入れ替え戦の相手は、一部最下位の国士舘大。昨秋青山学院大を下して念願の一部復帰を果たした1年後、二部降格のピンチに立たされようとは。戦国東都の厳しさを改めて感じた。
11月6日に行われた1回戦では駒澤がエース・白崎(勇。3年、駒大岩見沢)が4安打完封、打線も上村(4年、広陵)と主将・笠間(4年、平塚学園)の一発などで4点を挙げ、一部昇格に王手をかけて2回戦を迎えたのである。
国士の先発は屋宜(4年、中部商)、駒澤の先発は井口(2年、市川越)である。
1回、駒澤は一死から二番・赤木(4年、崇徳)が右翼越えの二塁打を放つと、続く3番・白崎(浩。2年、埼玉栄)が中堅へ弾き返しわずか9球で先制。この後四番・笠間のバントを国士の三塁手・今江(3年、平安)が処理し損ね、五番・山下(3年、広陵)が四球で歩き一死満塁とチャンスを拡大したが、ここは屋宜が踏ん張って後続を断った。
一方の駒澤・井口も1回、国士の一番、二番を連続三振に斬るも、三番・宮川(3年、千葉経大付)に四球を与えると、続く四番・井上(2年、国士舘高)、五番・大城(3年、中部商)に連続安打を許して満塁のピンチを招いたが、六番・丹澤(2年、甲府工)を中直に仕留め、何とかピンチを切り抜けた。
このあとは両校ともチャンスは作るものの得点出来ない展開が続く。2回、国士は二死二塁から一番・水口(3年、横浜商大高)が二塁内野安打を放つも、二塁走者・西川(3年、桐光学園)が三本間で挟まれてアウト。4回には先頭の大城の中堅直を駒澤の中堅・小林(2年、北海)が後ろに逸らす間に大城が二塁へ進塁。だが、続く丹澤のバントが小フライになり、打球を井口がワンバウンドで一塁へ送球して二塁走者が三塁に進めず、一死。続く七番・青山(4年、市船橋)は中堅へ弾き返し、一、三塁となるも西川、今江が連続で空振三振を取られ無得点。一方の駒澤も2回一死二塁のチャンスで一番・岡(3年、西日本短大付)が三塁邪飛、赤木が見逃し三振に倒れ得点出来ず、5回にも二死から安打と内野失策で一、二塁のチャンスを作るも山下が二塁ゴロに倒れ無得点と、重たい展開が続く。
何度も得点圏に走者を進めながらも無得点に終わってきた国士は8回、一死から大城がこの日2本目となる安打を右翼へ放ち出塁すると、駒澤はここまで粘り強く投げてきた井口に替わり、エース・白崎(勇)を投入。白崎は続く丹澤を一塁ゴロに抑え二死二塁としたが、この日ここまで2安打の青山が右翼へ二塁打を放ち大城の代走・島田(3年、横浜隼人)が生還。土壇場で同点に追いつくと、続く西川も右翼越えの三塁打を放ち2-1と逆転。結局白崎は僅か13球で加茂(4年、掛川西)にマウンドを譲り降板となってしまった。
9回、ここを抑えれば勝負の行方は翌日の3回戦に委ねられるという場面、国士・屋宜は変わらず140km/h台中盤(この日の最速は146km/h)の速球で、先頭の七番・小林を二塁飛球で一死。続く上村は遊ゴロとなるも頭から果敢にスライディング、内野安打となって出塁する。ここで駒澤は森田(4年、市銚子)を代打に送ると、国士は好投の屋宜に替え、抑えの切り札・樋口(4年、富士見)を投入したが、代打の代打・平川(3年、埼玉栄)の二ゴロを国士の二塁手・宮口(1年、高岡商)がファンブル。一塁走者、打者走者共に生きるとここまで3三振の岡が右翼手左を襲う二塁打を放ち、上村の代走・中谷(2年、八頭)が生還。今度は土壇場で駒澤が同点に追いついた。なおも一死二、三塁のピンチが続いたが、樋口は続く赤木を一塁ゴロで三塁走者・代走の松尾(3年、鳥栖)を本塁封殺、白崎を遊ゴロに仕留めると、その裏駒澤・加茂も一番から始まる国士の攻撃を三者凡退に仕留め、試合は延長戦へ突入した。
10回、駒澤は一死から山下が四球で出塁、途中出場の山本(4年、松山商)が三塁左を抜く安打で一、二塁。小林は遊ゴロで一塁走者が二塁封殺となり、二死一、三塁で打席には代走からそのまま右翼守備に入った中谷。171cm70kgの小兵が1ボールからの2球目を左へ流すと、打球は左翼線を襲った。三塁から山下、一塁から小林も一気に生還。中谷は本塁から三塁への送球で刺されたものの、ここでの2点差はあまりに大きい点差である。周囲の誰もが駒澤の勝ちを確信したかのような雰囲気だった。
その裏の国士の攻撃に対し、駒澤はこの回からマウンドに上がった1年生・村上(八千代東)が井上、島田を二塁ゴロに仕留めて二死。スタンドに異様な雰囲気が立ち込める中、3-2から村上が投じた速球に丹澤のバットが空を切る。瞬間、三塁側スタンドから五色のテープが投げ込まれ、マウンドを中心に人垣が出来た。駒澤、6シーズンぶりの一部復帰決定である。
この試合のポイントとなったのは、「チャンスを活かせたか」だろう。駒澤は初回に先制後、得点圏に走者を進める事が出来たのは2回、5回のみ。しかし、9回と10回に得点圏に走者を進めた際にしっかりチャンスを活かした。一方の国士は1回、2回、4回、5回、6回、7回と得点圏に走者を進めながらもあと一本が出ず、結果的に敗戦の要因となってしまった。
また、駒澤が8回、井口から白崎(勇)への継投失敗、国士も9回、屋宜から樋口への継投失敗と、継投の難しさを痛感した一戦だった。